2018年1月6日土曜日

即興型ディベートに必要な能力を身に着けるための練習法シリーズ② プレゼンテーション力

前回の「思考法」に引き続き、「プレゼンテーション力」(プレゼン力、パブリックスピーキング力)に関して書きたいと思っています。

そもそも即興型ディベートは議会を模していることから、政治家が「一般人」を説得することが求められていることから、ディベートの中でも特にプレゼン力が重要視される傾向にあります。(毎年行われる世界大会だと余興的にではありますがPublic Speakingの大会も並行して行われていることからも、親和性が高いなと思っています)

まず、下記の2枚がサマリとなります。


【1. そもそも即興型ディベートで目指す「効果的なプレゼンテーション」とは?】
色々な整理があると思うのですが、私は即興型ディベートにおいては「論理的な分かりやすさ」と「感情的な分かりやすさ」の両輪が大事だと思っています。
(巷ですと、前者を左脳的、後者を右脳的と表現していたりですとか、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスが人を動かす上で必要だと言っているエトス(ethos)・ロゴス(logos)・パトス(pathos)でいうロゴスとパトスにあたるものだとご理解ください。)

即興型ディベートで言うと、「論理的な分かりやすさ」とは、下記のような特徴があります。

  • アイデアの結論が最初に述べられ、根拠によって支えられている
    • 単純に“言いっぱなし”ではなく、その理由や例が説明されている
  • 複雑な事象であっても、シンプルに本質を抽出している
  • 特定のメッセージを伝えるために効果的なストーリー/構成になっている
    • 理解する上で必要な前提条件から説明したり対戦相手やチームメイトの発言内容の文脈と関連づけたりする
一つ目がKeyとなる原則であり、それが難しい内容であっても、個別最適だけではなく全体最適の観点からも「論理的に分かりやすい状態」であるか、という整理をしております。

「感情的な分かりやすさ」とは、下記のような特徴があります。
  • まるで目の前で起きているかのような、具体的な描写を通じて五感に訴えかける
    • 例えば、政策をとらない場合最も被害を被る人のドラマを描写
  • 声のトーン、表情、身振り、視線、相手との距離等、“非言語的”なコミュニケーションを活用している
  • 最低条件として、誰に見られても好感を持たれるような言い回しになっている
    • 差別的・侮辱的な発言ととられないよう、一言一言配慮している
言語的・非言語的なコミュニケーションを駆使して感情に訴えることが「0からプラスへ」の話だとすると、そもそも「マイナスを0にする」という前提条件が最後の話です。

(なお余談ですが、一部の方は「論理的なわかりやすさ」のみをディベートでは重視する、言い方を悪くするとロジック・マシーン、ロジック・モンスター、場合によっては口喧嘩のようなイメージを持たれています。ですが、実はそもそも「感情的な分かりやすさ」も同じくらい重要であるという話をすると、よく驚かれます)

【2.プレゼンテーション力を強化するための練習方法】
色々な練習方法が様々な本などでもご紹介されているかと思いますが、即興型ディベート関連ですと、下記のような練習方法があるかと思います。

まず、「論理的な分かりやすさ」の強化に関しては「通常よりも短い時間でのスピーチ練習」をお勧めしています。これは短い時間であればより何を言いたいか強制的に考えさせられ、結論・根拠の明示化につながりやすいというのがあります。

「イントロ」の1分だけに集中するのも非常に効果的です。昔は西日本地域の大会で「イントロ合戦」というような余興イベントも大会中にありました。これはどちらかというとエンターテイメント要素も大きかったとは思うのですが、強豪校では練習の一環として取り入れられていた時期もありました。自分でもできるのでおすすめですし、「ちょっとフィードバック頂戴!」というのも気軽ですね。
ak_debateがコーチする際も、イントロだけ書いていただきそれをwordで送っていただき、その添削をすることもあります。

「常に結論を先出しした完璧なスピーチづくり」というのもとても重要です。
AREAの型(Assertion、Reasoning、Example、Assertion;結論→理由→例→結論)を徹底することは、プレゼンテーションにおけるノウハウの一つです。巷では、別名OREOの型とも呼ばれているようです。(O=Opinion、意見)
ミソは、結論が最初と最後でサンドウィッチされているため分かる、またそれが根拠によって必ず支えられているというところです。
ak_debateはラウンド終了後、反論から立論まですべてAREAを徹底しなおした内容を納得するまでスピーチしなおしていましたし、結論の端的な言い方の言い回しをストックしていました。(英語即興型で言うと、具体的には、2010年の世界大会で優勝しているシドニー大学のクリス・クロークがword efficiencyも高く何度も聞きなおしていました)

また、「結局何を言いたいの?」を3回繰り返すディスカッションも重要です。特に思考がボトムアップ型の人、(積み上げ型の人)というのは、「で、何なの?」を他の人よりも意識的に繰り返す必要があります。(何を隠そう、ak_debateがそうでした)他の人と議論しながらso what?を繰り返していくと言いたいことが洗練されていく傾向にあります。コーチのセッション等でよくやらせていただいています。


次に、「感情的な分かりやすさ」で言いますと、まずドキュメンタリー、映画、小説等のストーリーテリングの技法を応用することはお勧めです。すぐできるのは、言い回しのストックですね。例えば、「痩せすぎているモデルの活動を禁止する」という議題があります。(最近フランスで話題になっていますね)こちらの肯定側の議論を行う際ですが、例えば下記のような記述の迫力があります。

In addition to extreme weight loss, symptoms of anorexia can include fatigue, dizziness and fainting, thinning hair, the absence of menstruation, dry skin and irregular heart rhythms. It can be life-threatening, warns the National Institute of Mental Health.

こちらは、モデルの目の前の健康状態の被害が目の前に浮かんできて、とても説得的だと思います。自分でやる方法としてはこのようにリサーチと組み合わせて表現をストックしていくことですね。

他にも「特定の感情(喜怒哀楽)のみを表現するスピーチ練習」も効果的です。これは昔ウィル・ジョーンズ(過去の世界大会チャンピオン)とリディアン・モーガン(現パブリック・スピーキング講師)が日本に来てレクチャーを行ってくれた時に聞いた話ですが、実際にやってみても効果的でした。「はい、じゃあ悲しくスピーチしよう!」「じゃあ次は楽しく」のように、喜怒哀楽の特定表現だけに特化して、すぐ内容にあわせて感情をこめられるようにする「ストック」づくりが重要です。なお、この際、感情を表現する際は表情であったり、場合によっては入場(ないしスピーチ台への向かい方)まで含めてすべてコントロールする必要があり、まさに「雰囲気を作り出すこと」「場を支配すること」が重要だとされています。
これは、鏡の前で自分でもできることなので、私もあえてやったりしています。特に、ディベートの国際大会になると海外は個々の表現が豊かで所謂「印象操作」で負けてしまうのでアジア大会で負けて悔しかった後はかなり練習していました。

最後に、悪い癖の矯正も大事です。不要な「まあ」「皆さん」などの表現を使用してしまった場合、スピーチをやり直すのが一例です。これもリディアンに教えてもらったのですが例えば海外では「特定の悪い口癖」がある場合それをスピーカーが言った瞬間先生や他の生徒がそれを即座に真似するらしいです。すると「あっ、やってしまった」となり恥ずかしさもあり必死に悪い癖を直しにいく傾向があるとのことで、荒治療ではあるものの一定の効果はあるんだろうなと思っています。

自分で行う場合ですが、私は自分のスピーチの音源を必ずその日のうちに聞き直しているのですが「よく使いすぎている表現」などは聞いて、次のラウンドでは「言わない!」という目標を立てたりしています。例えばLadies and Gentlemen!という表現ですが、これは最初や、本当に聴衆に訴えかけたい時は重要ですがそうでない際の「つなぎ」としてよく使ってしまっていました。なので、途中から一切使わないようにしています。

なお、これら一連のプロセスの際のコツですが「いろいろなバックグラウンドの人からフィードバックをもらう」ことが重要です。是非自大学だけではなく他大学の人も、ということもさることながら、社会人の方の視点や何ならディベートをあまり行っていない人の視点も重要で、場合によってはよりクリティカルだったりします。UTDS(東京大学英語ディベート部)で世界大会の日本人記録をたたき出したチームはよく「社会人練習会」で社会人の方にフィードバックをもらっていたのは有名な話ですね。

いかがでしたでしょうか。ぜひ「論理的な分かりやすさ」「感情的な分かりやすさ」の両方を身に着けてください!

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